ルンペルシュティルツヒェンとは?『シュレック』の取引相手とグリム童話の名前当て

石造りの部屋で藁から金の糸を紡ぐ小さな男と、見守る粉屋の娘 怪異
藁を金に紡ぐ場面を描いた挿絵。衣装や顔立ちは本文の具体的な指定ではありません。

『シュレック フォーエバー』で、シュレックと取引を交わすルンペルシュティルツヒェン。その長い名前には、グリム童話の「名前を知られたら負け」という、もう一つの怖い約束が隠れています。映画からこの人物を知った人は、藁を金に紡ぐ小さな男の昔話へ戻ると、取引の意味が違って見えてきます。

『シュレック フォーエバー』の取引相手から、グリム童話へ

DreamWorksの映画公式紹介は、シュレックがルンペルシュティルツヒェンとの取引を結び、世界が一変する筋を説明しています。友人との関係まで変わり、元の幸福を取り戻すために24時間という期限が課される。願いをかなえる話が、後から取り返しのつかない条件を見せるのが映画の入口です。

グリム童話では、取引する相手は粉屋の娘で、求められる代価は首飾り、指輪、そして最初に生まれる子へと変わります。さらに最後の勝負は、男の名前を三日以内に当てられるかどうか。映画の出来事や外見を昔話の設定へ移すのではなく、「助け」と「代価」がどう結び付くかを比べると、同じ名を持つ人物の使われ方が見えてきます。

ルンペルシュティルツヒェンは、グリム童話で藁を金に紡ぎ、報酬として王妃の最初の子を求める小さな男です。最後には名前を知られたことで約束が崩れますが、その姿や退場の仕方は、読んだ版によって印象が変わります。

本記事では、グリム兄弟『子どもと家庭の昔話集』第55話「Rumpelstilzchen」の1812年初版と1857年第7版を読み比べます。これは刊行された昔話の本文をたどる記事であり、怪異の実在や、作中の出来事が起きた年代を確かめるものではありません。

ルンペルシュティルツヒェンとは?姿と働き

1857年版の本文は、この存在を「小さな男」に当たる言葉で繰り返し呼びます。主人公が泣いている部屋へ現れ、糸車の前に座り、藁を金に紡ぎます。物語の後半には、人里から離れた小さな家と火、片足で跳び回る姿も登場します。1857年版のドイツ語本文で確認できる特徴です。

一方、服の色、帽子の形、長い髭、尖った耳などは、この本文には具体的に示されません。挿絵で見慣れた姿を、そのまま全版共通の設定にすることはできません。名前の長さと奇妙な踊りが強く印象に残る存在ですが、外見の情報そのものは意外に少ないのです。

また、本人が最後に悪魔を口にする場面はあっても、語り手が彼の正体を悪魔だと説明する箇所はありません。「妖精」「小人」といった分類を入口にしても、まずは本文が描く行動を押さえると読み違いを減らせます。

藁を金にする三晩と、報酬の変化

事件の発端は、粉屋が王の前で、娘には藁を金に紡ぐ力があると語ることです。1857年版では、粉屋は自分を立派に見せようとして、この話を持ち出します。娘自身が能力を自慢したわけではありません。それでも王は娘を藁のある部屋に閉じ込め、翌朝までに金にできなければ命を奪うと命じます。

そこへ現れた小さな男は、手助けの代わりに報酬を求めます。一晩目は首飾り、二晩目は指輪です。彼が約束どおり仕事を終えるたび、王はさらに多くの金を望み、娘をもっと大きな部屋へ移します。奇跡は娘を一度は救うものの、王の欲望を満たして終わることがありません。

三晩目、王は成功すれば娘を妻にすると告げます。しかし娘には、もう男に渡せる物が残っていません。そこで要求されるのが、王妃になったときに生まれる最初の子です。娘は窮地から抜け出すために承諾し、藁は再び金になります。結婚は物語の結末ではなく、先送りされた約束が現実味を帯びる転換点です。

この三段階には、身につけている財物から、まだ生まれていない生命へと代価が移る怖さがあります。ただし、男が最初から計画的に娘を追い詰めたとまでは本文に書かれていません。直接の脅迫を行う王と、救済に対価を求める男を区別して読む必要があります。

子を求める理由と、三日間の名前当て

子が生まれると、男は約束を果たすよう王妃に迫ります。王妃は国じゅうの富を差し出そうとしますが、1857年版の男は、世界の財宝より生きているものの方がよいという趣旨の返事をします。金を作れる存在が、金で引き下がらない。そのため、王妃が手に入れた豊かさは、この場面の解決には役立ちません。

泣き悲しむ王妃を見た男は、三日間の猶予を与えます。期限までに自分の名前が分かれば、子は渡さなくてよいという条件です。王妃は知っている名前を挙げ、さらに使者を出して各地の名を調べさせます。二日目には風変わりな名まで試しますが、正解には届きません。

三日目、戻った使者が、森の奥の小さな家で見たことを報告します。家の前には火が燃え、男が片足で跳びながら、パンを焼き、酒を造り、その後に王妃の子を迎えるつもりだと歌っていたのです。その歌の中で、男は自分の名前まで口にしていました。

王妃は正解をすぐに告げず、別の名を二つ出してから、本当の名前を問いかけます。すると男は激怒します。名前の力が重要な物語ではありますが、ここでは「名前を呼ぶと誰でも支配できる」という万能の魔法が説明されるわけではありません。男自身が提示した条件を、王妃が満たしたことが決着につながっています。

1812年版と1857年版では、発見者と結末が違う

1812年初版の本文を読むと、名前を持ち帰るのは使者ではなく王です。狩りから戻った王が、深い森で片足跳びをする男を見たことと、その歌を王妃に話します。名前が人づてに届く骨格は同じでも、解決に関わる人物が異なります。

もっと目立つ相違は最後です。1812年版では、名前を当てられた男は怒って走り去り、二度と戻りません。1857年版では、怒りにまかせて右足を地面に深く踏み込み、両手で左足をつかみ、自分の身体を二つに裂くという激しい結末になります。

したがって、「原作では走り去る」「原作では身体が裂ける」という説明は、版を付けて初めて正確になります。ここで確かめられるのは二つの刊行本文の違いです。この比較だけで、改変が初めて行われた年や、その理由まで断定することはできません。

資料の日付にも注意が必要です。1812年と1857年は、参照した本の刊行年です。粉屋の娘が王妃になった年でも、この昔話が最初に語られた年でもありません。昔話集に載った文章を、実際の目撃証言として扱わないことが大切です。

グリムの注記に残る、別の始まり方

初版本文に続くグリム兄弟の注記には、筋立ての異なる話も記されています。ある始まり方では、少女が亜麻を紡ごうとしても金の糸ばかりできてしまい、そのことで困っています。金を作れない少女と、金しか作れない少女では、冒頭の困りごとが逆になっています。

また、王妃の女中が夜の森で男を発見する形や、男が料理用の匙に乗って火の周りを巡る形、最後にその匙で窓から飛び去る形も紹介されます。これらは第55話の本文にすべて同時に登場する出来事ではなく、編者が注記で報告している別の語り方です。

この区別を保つと、絵本や再話に少し違う場面があっても、すぐに間違いと決めつけずに読めます。ただし、どの再話も必ずこの注記に由来するとは限りません。作品ごとの典拠や翻案の説明を確かめる必要があります。

ほかの怪異と比べると見えること

ルンペルシュティルツヒェンの特徴は、小柄であること以上に、窮地を救う仕事と、後から迫ってくる代価が結び付いている点にあります。家の繁栄と怪異の関係を比べるなら、『遠野物語』の座敷童子も参考になります。ただし、家にいることと繁栄が結び付く話を、子を報酬に求めるこの昔話と同じ仕組みにまとめることはできません。

また、妖精という大きなくくりでも、バンシーの泣き声の伝承は死の予告や家族との関係に重心があります。名前当ての勝負をする男と、死を知らせる声では、人間との関わり方が異なります。

ルンペルシュティルツヒェンを読む面白さは、名前が知られる瞬間だけにあるのではありません。父の言葉、王の命令、男との約束が重なり、最後に別の言葉によって危機がほどける。その流れを、版ごとの細部とともに追うことで、短い昔話の怖さがはっきり見えてきます。

参考資料

本文のあらすじは上記原文をもとにした要約です。注記の異伝と本文、刊行の事実と物語上の出来事を分けて紹介しました。

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