コシチェイとは?『アークナイツ』から読む卵に隠した死と不死の伝承

樫の下の箱と卵、野兎、水辺の鴨、遠くの人影を描いたコシチェイ伝承の想像図 怪異
樫・箱・野兎・鴨・卵を象徴的に配した、コシチェイの伝承に基づく想像図。史料の挿絵や作品の公式画像ではありません。

『アークナイツ』でコシチェイという名を知った人もいるだろう。ロシアの昔話に登場する「不死のコシチェイ」は、さらった女性をめぐって主人公と争い、ときには自分の「死」を体の外に隠す存在だ。ただし、その倒し方は一つではない。

本記事では、アニメ・ゲーム・小説に登場するコシチェイを入口に、W・R・S・ラルストンの英訳伝承集で二つの退治譚を読み比べる。作品の公式紹介で確認できる設定と、昔話の本文に書かれた出来事を分けて見ていこう。以下は伝承の結末を含む。

樫の下の箱と卵、野兎、水辺の鴨、遠くの人影を描いたコシチェイ伝承の想像図
樫・箱・野兎・鴨・卵を象徴的に配した、コシチェイの伝承に基づく想像図。史料の挿絵や作品の公式画像ではありません。

アニメ・ゲーム・小説で出会うコシチェイ

『アークナイツ』ではウルサスの公爵

TVアニメ『アークナイツ』の公式キャラクター紹介には、コシチェイ(Kashchey)がウルサス帝国の公爵として掲載されている。タルラを連れ去って後継者として育てた人物で、声を担当するのは森川智之だ。

ここで確かめられるのは、作品内の人物像である。公式のこの紹介は、ロシア民話のどの話を直接もとにしたかまでは説明していない。女性の連れ去りという点を昔話と比べることはできるが、卵に死を隠す仕組みや十二の鎖まで、同じ設定だと考えるのは早い。作品のコシチェイを知るほど、伝承では何が語られているかが面白くなる。

ゲーム『Bylina』では不死の敵への挑戦

アクションアドベンチャー『Bylina』の公式Steamストア紹介は、スラヴの民話・伝説をもとにした世界と、不死身のコシチェイへの挑戦を掲げている。主人公はイワン王子ではなく、英雄を目指す若者ケストレル。死から戻ったのち、謎の霊と体を共有することになる。

不死の敵だけでなく、主人公の生還や魂も物語の問題になる点が読み比べの入口になる。ただし、ストアの紹介だけでゲーム内の退治方法までは確定できない。後述する卵の破壊や魔法の馬を、そのまま攻略条件として読み替えないようにしたい。

小説『Deathless』はマリヤ・モレヴナの物語を再構成

キャサリン・M・ヴァレンテの小説『Deathless』は、出版社Tor Books/Macmillanの紹介で、マリヤ・モレヴナと不死のコシチェイのロシア民話を再話した作品と明記されている。舞台には20世紀前半のサンクトペテルブルクを取り入れ、マリヤをコシチェイの花嫁として描く。

この関係は、下で読む「Marya Morevna」と比べると興味深い。ラルストン版のマリヤはイワンの妻であり、コシチェイに連れ去られる。誰と結婚し、誰の側から物語を見るかが変われば、同じ名の人物の意味も変わる。『Deathless』は作者による現代小説で、歴史上の時代を取り込んでいても、昔話の採録や歴史書とは区別して読む作品だ。

伝承への入口:卵と十二の鎖

十二の鎖につながれた男に水を与えると、鎖が一斉に切れ、恐ろしい旋風が窓から飛び出す。一方、別の物語では、その男の命を握るものは遠い場所に隠された一個の卵である。ロシアの昔話に登場するコシチェイは、「不死」と呼ばれながら、物語ごとに異なる方法で倒される怪異だ。

ここから読むのは、英訳伝承集『Russian Fairy Tales』所収の「Marya Morevna」と「Koshchei the Deathless」である。

コシチェイとはどんな存在か

ラルストンの二つの話で共通するのは、コシチェイが女性を連れ去り、救い出そうとするイワン王子の前に立ちはだかることだ。ただし、「Marya Morevna」でさらわれるのは王子の妻であり、「Koshchei the Deathless」で捜索のきっかけとなるのは王子の母である。名前が同じでも、二つを一続きの冒険と考えることはできない。

英語の呼び名は Koshchei the Deathless。「死なない者」を思わせる名だが、どんな攻撃も永久に通じないという統一設定があるわけではない。卵の破壊で死ぬ話も、馬の蹴りと王子の攻撃で倒される話も掲載されている。まず、どの話のコシチェイなのかを確かめることが大切になる。

外見についても、この二話の本文から王冠や衣装の色まで決めることはできない。印象を作るのは、鎖を破る力、旋風の姿、空を移動する動き、人間の気配を嗅ぎつける言葉だ。後の挿絵を見たときには、本文の描写と画家が補った姿を分けて楽しみたい。

卵の中に隠された「死」

秘密を聞き出すのは母

「Koshchei the Deathless」では、王妃をさらわれた王の息子たちが母を捜しに出る。末のイワンは不思議な馬を手に入れ、高い山の上へ進み、先に別の王女、続いて自分の母に出会う。母は息子を隠し、帰宅したコシチェイを言葉巧みに安心させて、死のありかを尋ねる。

答えは入れ子になっている。樫の木の下に箱があり、箱の中に野兎、野兎の中に鴨、鴨の中に卵があり、その卵にコシチェイの死があるという。ここで紹介する本文では、卵から針を取り出す場面はない。知られている別の再話の細部を、そのままこの話へ加えないようにしたい。

野兎・鴨・海が作る三つの難所

王子は卵を求める道で空腹になるが、狼の子、烏、岸に跳ね上がった若いカワカマスを助ける。その恩が後で返ってくる。カワカマスは海に身を横たえて橋となり、王子を樫の木まで渡してくれる。

ところが箱を開けると野兎が逃げ、捕まえた野兎からは鴨が飛び出す。狼が野兎を捕らえ、烏とその子たちが鴨を追ってくれたことで、ようやく卵に届く。さらに帰路で卵を海に落としてしまうが、今度もカワカマスが拾い上げる。陸・空・水のそれぞれで、人間だけでは追いつけない相手を動物が補う構成だ。

母のもとへ戻った王子が卵を握りしめると、コシチェイの体が折れ曲がる。ついには命乞いをし、手を組めば世界を支配できると持ちかけるが、王子は卵を砕く。敵を直接斬るのではなく、遠くに隠されていたものを壊すことで勝負が終わる。巨大な力が小さな卵に左右される落差が、この怪異の見どころである。

参照:ラルストン「Koshchei the Deathless」、紙面111~119頁。英語本文を読む。

十二の鎖と三杯の水――「Marya Morevna」

もう一つの話では、イワンは戦いに長けたマリヤ・モレヴナと結婚する。妻は出征に際して、ある小部屋だけは見ないよう言い残す。夫が禁を破って戸を開けると、そこに十二の鎖で拘束されたコシチェイがいた。

コシチェイは十年間飲食できなかったと訴え、水を求める。王子が桶で三杯飲ませると、元の力を取り戻して鎖を切り、旋風となって逃げる。そのままマリヤを捕まえて連れ去ってしまう。助けを求める囚人だと思った相手が、家を壊す脅威に変わる場面だ。ただし、なぜ彼が囚われるに至ったかを、本文以上に詳しい過去として補うことはできない。

妻を連れ戻す王子を追うのは、途方もなく速い馬に乗ったコシチェイである。馬は、麦を育てて収穫し、料理を食べてから出発しても追いつけるというほど余裕を示す。コシチェイは水の恩を理由に二度は王子を見逃すが、三度目には殺してしまう。

生き返る王子と、より優れた馬

王子を救うのは、三人の姉妹の夫となった鷹・鷲・大烏だ。遺体に「死の水」をかけると体がつながり、「生の水」をかけると命が戻る。名前から受ける印象と異なり、死の水も回復に欠かせない役割を持つ。

生還したイワンは、マリヤに敵の馬の入手先を聞き出してもらう。その先にいるのがバーバ・ヤガである。王子は、途中で助けた鳥、蜂、雌ライオンの力を借りて牝馬の番の試練を乗り切り、蜂の助言でみすぼらしい仔馬を連れ出す。草地で養われた仔馬は、コシチェイの馬を上回る名馬へと変わる。

最後の追跡で、王子の馬はコシチェイの頭を蹴り、王子が棍棒でとどめを刺す。その後、遺体を焼いて灰を風に散らす。この退治に、隠された卵の探索は登場しない。「不死だから卵を壊すしかない」と覚えると、この結末を読み落としてしまう。

参照:ラルストン「Marya Morevna」、紙面97~108頁。英語本文を読む。

二つの話を比べると見えるもの

卵の話では、敵が隠した秘密を知り、逃げる動物を追い、壊れやすいものを運ぶことが課題になる。マリヤの話では、追跡者より優れた馬を得ることが脱出の条件となる。どちらも王子一人の力で完結せず、女性の聞き出す情報と、人間以外の協力が道を開く点は共通している。

本記事の読みとしては、コシチェイの強さは腕力だけでなく、相手より重要な情報や移動手段を持っていることにもある。その優位が崩れると、「不死」の名を持つ者も敗れる。恐ろしい呼び名と、意外に具体的な弱点が並び立つところに昔話らしい面白さがある。

なお、卵を壊す話はそこで全て終わらない。救出の功績を奪おうとする兄たちの裏切りが続き、王子は別の助けを得て帰還する。怪物を倒すことと、人間の社会で正しく認められることは、別々の試練として描かれている。

伝承集を読むときの注意と関連記事

ラルストンは序文で、アファナーシエフらの既刊の採集資料から話を選び、英訳したことを説明している。本記事が直接確認したのもその英語本文であり、ロシア語の採話原本そのものではない。掲載された筋は伝承の記録として読めるが、超自然的な出来事が現実に起きた証拠ではない。また、本文の物語と、編者が添えた比較・解釈も区別する必要がある。

出典をもう一段たどる手がかりも残る。ラルストンは「Marya Morevna」の注101にアファナーシエフ集第8部第8話、「Koshchei the Deathless」の注112に同第2部第24話・ペルミ地方と記す。これはラルストンが用いた版の参照番号であり、別の版の通し番号とはそのまま対応させられない。本記事はこの出典注を確認したうえで、紹介する細部を英訳本文の範囲に絞っている。

怪異と馬の関係を比べるなら、ケルピーの水馬と頭絡の伝承も参考になる。また、人間以外の存在と女性の帰還をめぐる別の物語として、セルキーのアザラシの皮と結婚譚も読める。似た道具や場面があっても、それだけで同じ起源を持つとは断定できない。

参考資料

本記事は原著者・編者を明記した資料に基づく独自の要約・比較です。著作権保護期間を満了した昔話の原文を参照し、現代作品の紹介文・台詞・公式画像や既存挿絵は転載していません。

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