『Fate/Zero』でキャスターが名乗る「青髭」。その名前から、禁じられた部屋や血の消えない鍵の昔話に興味を持った人もいるでしょう。アニメ公式サイトはキャスターを青髭と名乗る英霊として紹介し、星海社の作品紹介はその正体をジル・ド・レェとしています。ただし、これは『Fate/Zero』の人物設定です。ペローの「青髭」の夫や、歴史上の人物と、そのまま同一視はできません。
『Fate/Zero』の青髭から、ペローの物語へ
アニメ公式のキャラクター紹介と、星海社のキャスター紹介は、現代作品における青髭の使われ方を知る資料です。そこでは英霊として召喚される人物が描かれます。一方、ペローの物語で恐怖の中心にあるのは、妻に秘密の部屋への立ち入りを禁じる裕福な夫です。
共通する名を入口に、何が変わったかを比べると、それぞれの怖さが見えてきます。本記事では『Fate/Zero』の設定紹介と、ペロー・グリムの本文を区別して読みます。作品紹介を、昔話のモデルや史実を証明する根拠にはしません。
青髭(あおひげ)は、禁じた部屋に妻たちの遺体を隠す、恐ろしい夫の物語です。青い髭という異様な外見だけでなく、洗っても血が消えない鍵、助けを待つ短い時間、豪華な暮らしの裏にある暴力が怖さを作ります。
ただし、青髭を一種類の妖怪として扱うと、物語の特徴を取りこぼします。ここではシャルル・ペローの1697年刊行本「La Barbe bleue」と、グリム兄弟の1812年初版「Blaubart」を読み比べます。以下は結末を含む紹介です。
青髭とは?青い髭を持つ裕福な男
ペロー版の青髭は、町と田舎に立派な家を持ち、金銀の食器、豪華な家具、金色の馬車を所有する男です。近所の女性の娘たちに結婚を申し込みますが、二人とも恐ろしい青い髭を嫌がります。以前にも何度か結婚しているのに、その妻たちがどうなったか分からないことも、不安の理由でした。
男は母娘や友人たちを田舎の屋敷へ招き、八日間、狩りや宴などでもてなします。やがて妹は、髭もそれほど青く見えず、立派な人なのだと思うようになり、結婚します。髭の色が魔法で変わったという説明はありません。豊かさや楽しい時間によって、彼女の見方が変わる場面として読めます。
この版の冒頭で青髭は王とは呼ばれていません。一方、グリム版では六頭立ての金色の馬車で現れる王です。「城に住む王」と「裕福な男の屋敷」は、参照する版を示して区別したい点です。
開けてはいけない部屋と、血の消えない鍵
ペロー版では結婚から一か月後、青髭は少なくとも六週間の旅に出ると告げ、妻に家の鍵を渡します。財宝のある場所も自由に見てよい。ただし、階下の長い回廊の端にある小部屋だけには入るな、と命じるのです。
友人たちが家の豪華さに夢中になる一方、妻は禁じられた部屋が気になり、とうとう扉を開けます。初めは暗くて何も見えません。目が慣れると、血で覆われた床と、壁沿いに掛けられた女性たちの遺体が見えてきます。語り手は、それが青髭に殺された過去の妻たちだと説明します。
驚いた妻は鍵を落とします。その血を拭き、洗い、砂などでこすっても、汚れは落ちません。片側をきれいにすると、反対側に再び現れます。原文は鍵に魔法がかかっていることを明記しています。単に洗い残した血を夫が見つける話ではなく、隠し通せない証拠そのものが超自然的なのです。
青髭はその晩に帰宅し、翌日、鍵を求めます。妻は小部屋の鍵だけを渡さずに済ませようとしますが、追及され、ついに差し出します。血を見た青髭は、妻も部屋の女たちに加わることになると告げます。ここまでの筋は、ペロー1697年版の本文によります。
姉アンヌの見張りと、二人の兄弟による救出
妻は祈るための時間を求めます。青髭が許すのは「十五分の半分」に当たる、ごく短い猶予でした。妻は姉アンヌに塔へ上がってもらい、その日に訪れる約束をしていた兄弟が来ないか、見張るよう頼みます。
妻が何度も問いかけても、姉に見えるのは日の光と草ばかり。やがて土煙が見えますが、それは羊の群れでした。期待が一度外れることで、助けが間に合わないかもしれないという緊張が強まります。青髭が妻を呼ぶ声と、姉へ向けた問いかけが交互に続くのが、この場面の特徴です。
ついに二人の騎馬の男が現れます。兄弟は竜騎兵と銃士で、妻が殺される直前に屋敷へ入り、逃げる青髭を追って倒します。青髭に相続人がいなかったため、財産は妻のものになります。妻は姉の結婚と兄弟の出世を助け、自分も別の誠実な男性と再婚します。
物語は救出だけで終わりません。恐ろしい夫に支配されていた財産が、生き残った妻の新しい暮らしを支えるものに変わるところまで描かれています。
グリム1812年版では何が違う?
グリム兄弟の初版第62話「Blaubart」にも、青い髭、禁じられた部屋、消えない血の鍵が登場します。しかし、救出までの仕組みには大きな違いがあります。
- 娘は父に勧められて王と結婚し、出発前に三人の兄弟へ、叫び声を聞いたら助けてほしいと約束を取り付けます。
- 小部屋の鍵は金製です。娘は血を落とそうとして、夜の間、鍵を干し草の中へ入れます。
- 姉アンヌは登場せず、妻自身が窓から兄弟へ叫びます。森にいた末の兄弟が声に気づき、三人が馬で駆けつけます。
- 倒された青髭は、殺した妻たちのいる部屋に掛けられます。妹は兄弟と家へ帰り、財産を得ますが、再婚の説明はありません。
ペロー版が、訪問予定の兄弟を待つ姉妹のやり取りを重ねるのに対し、グリム版では結婚前の約束が救出につながります。妻は危険を感じた時点で、あらかじめ助けを求める手段を用意していたのです。
干し草のくだりにも注記があります。グリム兄弟は、自分たちが聞いたドイツの話にはアンヌの場面がなく、代わりに干し草が血を吸い取るという民間の信念に基づく挿話があると説明します。これは当時の編者による伝承の説明であり、干し草に特別な洗浄作用があることの実証ではありません。
「好奇心の罰」だけで説明できるのか
ペロー版の末尾には二つの教訓が置かれています。一つ目は、好奇心の楽しみは短く、しばしば大きな後悔を招くというものです。ところが二つ目は、このように恐ろしい夫の話は昔のことで、今では夫が妻におとなしく従い、どちらが主人か分からないと語ります。
この二つ目を、現実の夫婦間の暴力が消えたという歴史的事実として読むことはできません。物語を閉じる、からかいや皮肉を含んだ文学的な語りです。第一の教訓だけを抜き出して「妻が好奇心を持ったから悪い」とまとめると、本文の殺人と救出、そして二つ目の教訓を見落としてしまいます。
本記事の読み方では、扉を開ける行為には二つの面があります。夫の命令を破る一方で、結婚生活に隠されていた危険を知る行為にもなる。鍵の血は妻を追い詰めますが、部屋で見たものこそ、青髭から逃れる必要を明らかにするのです。
青髭は実在した?物語と史実の区別
今回参照した二つの本文は、実際の事件を調べた裁判記録ではありません。確認できるのは、1697年のペローの刊行本と1812年のグリムの刊行本に、それぞれの形で話が載っていることです。刊行年を青髭が生きた年代と考えたり、本文だけから特定の歴史人物をモデルと断定したりはできません。
また、青い髭だけで妖精や悪魔の種族だと決まるわけでもありません。少なくともペロー版では、人間の夫による恐怖と、魔法の鍵の不思議さが同じ物語に組み合わされています。その境目に、青髭の独特の不気味さがあります。
関連する怪異と読み比べる
夫婦の間で交わした禁止と秘密という点では、小泉八雲の「雪女」も比較できます。ただし、語ってはいけない約束と、入ってはいけない部屋では、禁止の内容も結末も異なります。共通点は読むための手がかりであり、同じ起源の証明ではありません。
見慣れた相手や場所が突然恐ろしくなる演出に注目するなら、「むじな」ののっぺらぼうも一緒に読めます。青髭では、豪華な家の中に残された一つの暗い部屋が、安心していた暮らしの意味を反転させます。
参考資料
現代作品の設定は、上記『Fate/Zero』アニメ公式サイトおよび星海社のキャスター紹介を参照。作品画像・文章の転載は行わず、設定を要約しています。
- Charles Perrault, 「La Barbe bleue」, Histoires ou Contes du temps passé, Claude Barbin, 1697, pp.57–82。刊行本文と二つの教訓の一次資料。Wikisourceの原綴り翻刻で確認。
- Brüder Grimm, 「Blaubart」, Kinder- und Haus-Märchen, 第1巻初版、1812、第62話、pp.285–289、および同巻注記。本文の比較と、編者による干し草の説明に使用。Wikisourceの翻刻で確認。


