ホレおばさんとは?ゲーム・アニメの登場例と雪を降らすグリム童話

老女が見守る寝室で、娘が白い寝具を振って羽毛を舞わせている。開いた窓の外には雪をかぶった村が見える。 怪異

ホレおばさんは、グリム童話「Frau Holle」に登場する不思議な老女です。大きな歯で訪問者を怖がらせますが、家でまじめに働く娘には親切に接します。とりわけ印象的なのは、寝床を整えて羽毛を舞わせると、人間の世界に雪が降るという仕組みです。

老女が見守る寝室で、娘が白い寝具を振って羽毛を舞わせている。開いた窓の外には雪をかぶった村が見える。
寝床を振る娘と、それを見守るホレおばさん。舞う羽毛と人間界の雪のつながりを象徴的に描き、衣服や帽子、杖、猫、室内と窓外の風景は創作で補っています。

ただし、ホレおばさんを「雪を降らせる優しいおばあさん」とだけ覚えると、物語の厳しさが抜け落ちます。彼女は黄金を与える一方、別の娘には一生落ちない瀝青を浴びせます。ゲームとアニメの登場例を入口に、本記事ではグリム兄弟『子どもと家庭のメルヒェン』第24話の1812年初版と1857年第7版を比較し、その姿と役割を読み解きます。

ゲーム・アニメの登場例から、グリム童話へ

アイテム探しゲーム『Christmas Spirit: Grimm Tales』では、ホレおばさんは救出の対象として登場します。開発元が掲載するGoogle Playの公式紹介によれば、ボーナスチャプターではラプンツェルを操作し、妹のヘッジウィッチから彼女を助けます。この姉妹関係やラプンツェルとの共演は、このゲームの紹介文で示される設定です。以下で読むグリム第24話の筋には登場しません。〔出典3〕

日本のアニメーションにも入口があります。国立映画アーカイブは、1973年の『ふしぎないど グリムどうわより』(監督:市川安久利、18分)を、グリム童話『ホレおばさん』を原作とする作品として紹介しています。井戸の先に別の世界が広がる、という物語の仕掛けに注目した紹介です。昔話を読むだけでなく、その不思議な場所を映像として描いた作品もあるのです。〔出典4〕

ゲームで知ったホレおばさんと、昔話のホレおばさんを読み比べるなら、まず役割の違いが手がかりになります。グリムの本編で彼女は、異界の家に来た娘を迎え、仕事を頼み、その働きに応じた返礼を与える家の主です。助けられる側として紹介される現代ゲームとは、物語の中で置かれた位置が違います。

ホレおばさんの姿と、雪を降らす家

1857年版でホレおばさんが現れるのは、花の咲く草原を進んだ先の小さな家です。家から顔をのぞかせた老女には大きな歯があり、娘は逃げ出そうとします。しかし老女は穏やかに呼び止め、家の仕事をきちんとするなら、ここでよい暮らしができると伝えます。

彼女がとくに頼むのは、寝床をよく整え、羽毛が飛ぶほどしっかり振ること。その作業が人間界の降雪につながります。本文の脚注には、ヘッセンでは雪が降るとホレおばさんが寝床を整えていると言う、という説明もあります。これはグリムの刊本が伝える言い伝えであり、雪の自然科学的な原因を述べたものではありません。

原文から確かめられる外見の特徴は、まず老女であることと大きな歯です。帽子や衣服の色、杖などを固定した設定として加えるには、別の絵や再話の典拠が必要です。身近な家事と天候がつながる一方、その身体には少し怖いところが残る。この組み合わせがホレおばさんの魅力でしょう。〔出典1〕

井戸の先で、パンとリンゴが助けを求める

1857年版の主人公は、継母の家で働かされる娘です。井戸のそばで糸を紡いでいるうちに指から血が出て、糸巻きも汚れます。それを洗おうとして井戸へ落とすと、継母は拾い直すよう命じます。追い詰められた娘が井戸へ入り、意識を取り戻した先が、日の差す草原でした。

そこで娘は、焼けすぎそうなパンと、実が熟したリンゴの木に出会います。どちらも言葉で助けを求め、娘はパンを窯から取り出し、木を揺すってリンゴを落とします。ホレおばさんに雇われる前から、訪問者の振る舞いが具体的な作業として示されるのです。

注目したいのは、この段階で黄金の約束がないことです。娘は報酬を知ってから行動するのではなく、目の前の困りごとに応じます。対して後半に同じ道を進むもう一人の娘は、汚れたくない、リンゴが頭に当たるかもしれないと言って素通りします。同じ場所と問いかけを反復することで、二人の選択が見えやすくなっています。〔出典1〕

黄金の雨と、一生落ちない瀝青

ホレおばさんの家では、働き者の娘は叱られることなく、毎日よい食事を与えられます。それでもやがて故郷が恋しくなり、帰りたいと打ち明けます。老女は引き止めず、娘の手を取って大きな門へ連れていきます。

門の下に立つと、黄金が雨のように降り、娘の全身を覆います。ホレおばさんは勤勉に仕えた報酬だと告げ、井戸に落ちた糸巻きも返します。門が閉まると娘は人間界に戻り、家に帰った姿を雄鶏が鳴いて知らせます。

これを聞いた継母は、自分の娘にも同じ富を得させようとします。ところが二人目は、ホレおばさんのもとで働き始めてもすぐ怠け、寝床を十分に振らなくなります。やがて暇を出され、同じ門へ案内されますが、降ってきたのは黄金ではなく、大きな釜いっぱいの瀝青でした。

原文の「Pech」は、黒く粘るピッチ、瀝青を指す語です。ここではその物質が生涯落ちないと語られます。単なる汚れで終わらず、その後の人生にまで罰が続く点に、昔話らしい苛烈さがあります。これは物語内の賞罰の仕組みであり、現実の人の困窮や外見を勤勉さの証拠として判断できるという意味ではありません。〔出典1〕

1812年初版では、井戸への入り方が違う

初版と第7版を読み比べると、話の骨格が同じでも導入が異なります。1812年本文では、娘は水を汲もうとして深く身をかがめ、井戸へ落ちます。1857年版のような、血のついた糸巻きを落とし、継母に取り戻せと命じられる展開ではありません。

また初版本文は、未亡人が二人の娘のうち一方をひいきする、と始まります。第7版では、ひいきされる娘が実の娘であることが明示され、働く主人公と継母の関係がはっきりします。井戸に向かわせる圧力も、後の版ではより具体的に描かれています。

一方、大きな歯、パンとリンゴ、雪を降らす寝床、帰郷への願い、黄金と瀝青の対照は初版にも見られます。帰還を告げる雄鶏は第7版にありますが、初版本文には登場しません。「初版はまったく別の話」「知られている細部はすべて最初から同じ」のどちらでもなく、残った部分と改められた部分を分けるのが正確です。なお1812年と1857年は刊行年であり、語りそのものの誕生年ではありません。〔出典1・2〕

初版の付録には、髪を梳く水の精もいる

1812年版に付された注記は、もう一つの語りとして、継母に井戸へ投げ込まれた娘の話を紹介します。娘は立派な庭と家へ着き、吹きこぼれそうなスープや焦げかけた料理を世話します。その後に現れるのは、長く梳かれていない恐ろしい髪を持つ「Nixe」、水の精です。

この精は、髪を引っ張らず、一本も抜かずに梳くよう求めます。娘はその難しい仕事をやり遂げますが、先に料理の小さなくずを食べていたため、そこにとどまれないと言われます。それでも指輪などの贈り物を受け取ります。後から来たもう一人の娘は、同じようには振る舞えず、よくない贈り物を持ち帰ります。

この異伝には、井戸の先の存在への奉仕と、二人の娘への異なる返礼という共通点があります。ただし、水の精の髪を梳く場面を、ホレおばさんの本編の出来事として混ぜるのは避けたいところです。グリム自身が並べた比較材料として読むことで、雪と羽毛だけに限らない物語の広がりが見えてきます。〔出典2〕

雪女やマヨイガと、どこが違うのか

雪に結びつく女性という点では、日本の雪女を連想するかもしれません。しかしホレおばさんの物語の中心は、異界の家での奉仕と返礼です。同じ雪の印象があるからといって、同じ由来や性格を持つ存在だとは言えません。

また、日常から離れた場所で不思議な家に出会い、富を持ち帰る点は、遠野のマヨイガと比較する入口になります。ここでの比較は読解のためのもので、両者の直接的な伝播関係を示すものではありません。

ホレおばさんの話では、井戸の下へ行ったはずなのに、その家の羽毛が人間界の雪になります。身近な寝床の手入れが、世界の出来事へつながるのです。怖い歯と温かい食事、黄金と消えない黒い跡。その両面を原文でたどると、優しさだけでも恐ろしさだけでもない、異界の家の主の輪郭が浮かび上がります。

参考資料

  • 出典1:グリム兄弟「Frau Holle(1857)」『Kinder- und Haus-Märchen』第1巻、第7版、133–136頁。本文とヘッセンの言い伝えを述べた脚注を参照。Wikisourceの校正済み翻刻。
  • 出典2:グリム兄弟「Frau Holle(1812)」同第1巻初版、106–110頁、および付録「Zu der Frau Holle. No. 24.」。初版本文と異伝紹介を参照。Wikisourceの校正済み翻刻。
  • 出典3:Do Games Limited「Christmas Spirit: Grimm Tales」Google Play公式配信ページ。「このゲームについて」のボーナスチャプター紹介を参照。現代ゲーム内の設定を確認する資料。
  • 出典4:国立映画アーカイブ「こども映画館 2021年の夏休み」7月31日のプログラム。『ふしぎないど グリムどうわより』の原作・制作年・監督・上映時間を参照。作品情報を確認する上映機関の資料。

本記事は刊行された昔話本文と編者の注記を中心に、現代ゲームの公式紹介とアニメーションの作品情報を読み比べています。グリムの本文と注記は物語の内容や編者の記録を確かめる一次資料ですが、超自然的な出来事の実在を証明する記録ではありません。異界の地理や物語上の賞罰についての読み取りは、本記事の解釈です。

本記事は原著者・編者を明記した資料に基づく独自の要約・比較です。著作権保護期間を満了した昔話の原文を参照し、現代作品の紹介文・台詞・公式画像や既存挿絵は転載していません。

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