黒く虹色に光る塊が、巨大な地下通路を満たしながら近づいてくる。表面には緑がかった目が次々と生まれ、また消えていきます。ショゴス(Shoggoth、複数形 Shoggoths)は、H・P・ラヴクラフトの創作に登場する、体の形を変える神話生物です。
その特徴は、ただ不定形で巨大なことだけではありません。『狂気の山脈にて』(At the Mountains of Madness)では、別の知的生命に造られ、都市を築く労働に使われ、やがて自分の意志を獲得していく存在として描かれます。ここでは原典の記述をもとに、体、生まれた目的、模倣、支配との関係を整理します。
ショゴスとは――造られた不定形の労働者
『狂気の山脈にて』の探検者たちは、南極の遺跡に残る彫刻を読み取り、星形の頭を持つ「古のもの」たちの歴史を推測します。その中で、重労働を担わせるために造られた多細胞の原形質の塊が、ショゴスだと理解されます。
ここでの由来は、実在の南極史や生命の進化を説明したものではありません。小説中の架空の文明史であり、さらにその一部は登場人物による図像の解読を通して語られています。作中の歴史の推定と、のちに目撃される姿は、情報の得られ方が異なります。
原典はショゴスを、単に自然発生した粘液状の獣として扱ってはいません。造る側と造られる側、命令する側と働かされる側の関係が、その恐怖の背景にあります。
体の特徴――泡の集まりと、仮に生まれる器官
決まった輪郭を持たない
彫刻から読み取られるショゴスは、泡が寄り集まったような粘性のあるゼリー状の存在です。形と体積が絶えず変わり、必要に応じて一時的な手足や器官に相当するものを作ることができます。
球形をとった場合には平均で直径十五フィートほど、約四・六メートルと記されます。ただし、これは球形の状態についての説明です。いつでも同じ直径の球として移動するわけではなく、本文の後の時代には、さらに大きく育った個体群にも言及されます。
固定された目の数や、必ず備わる触手の本数を決めるより、器官が作られ、変わり、失われるという性質を押さえるほうが、原典の特徴に近づけます。
緑がかった目ができては消える
探検者が地下通路で目にするものは、黒く虹色の光沢を帯びた巨大な塊です。弱い自発光があり、通路を埋める前面には、緑がかった光を伴う無数の一時的な目が生まれては消えます。
この直接の遭遇場面は、ショゴスの図像を考えるうえで重要です。目は普通の動物のように決まった位置に並んでいるのではありません。暗い通路の中で、一つの顔として読み取れないまま視線のようなものが増減する点に、独特の不気味さがあります。
ただし、この場面の黒い光沢や大きさを、あらゆる作品に登場する全個体の不変の外見として扱う必要はありません。原典中でも、説明される時代や状態によって描写には幅があります。
何のために造られたのか
古のものたちは、ショゴスの組織を催眠的な働きかけによって変形させ、共同体の重い仕事に用いたと説明されます。体を膨らませて非常に重いものを持ち上げる能力は、海底都市の建設に役立ちました。
本文では、海中の小さな都市が大きな石造りの迷宮へ成長していく過程に、ショゴスの労働が結びつけられます。のちに洞窟の海へ新しい都市を築く場面でも、石を持ち上げる働き手を育てるための組織が持ち込まれます。
この点から、ショゴスは破壊する怪物である前に、文明を支える建設の担い手でもあったと読めます。地下遺跡の壮大さと、その奥にいる恐怖が、別々ではなく同じ歴史から生じているのです。
知性と自立――いつまでも命令どおりではない
原典の歴史叙述では、ショゴスは分裂によって増殖し、偶発的に危険な程度の知性を獲得していったとされます。以前の命令によって覚えた形を、外から指示されなくても自分で作り出すようになり、半ば安定した脳に相当するものも発達したと説明されます。
その意志は、古のものたちの意志を反映しながらも、常に従うわけではありません。この変化が、管理する側にとって深刻な問題となります。命令を写し取る能力と、命令から離れる可能性が、同じ生物の中に生じています。
「ショゴスは知性を持たない」と一律に説明すると、この経過が抜け落ちます。反対に、原典から人間と同じ倫理や社会制度を持つと断定することもできません。時代や個体群の変化として示される発達を、そのまま読む必要があります。
反乱と再支配――支配者側に残された記録
遺跡の彫刻には、ショゴスが従いにくくなり、海中の古のものたちが再び服従させるために戦った歴史が描かれます。その戦いでは、物質の分子に作用するような武器が用いられ、最終的に支配する側が勝利したと読み取られます。
しかし、この記事でそれを現実に再現できる武器の説明や、すべてのショゴスに通用する攻略法としては扱いません。原典にある架空の文明の戦いの記述であり、仕組みの詳細が示されているわけではないからです。
また、ここで読まれる歴史は、古のものたちが残した彫刻です。ショゴス自身の立場から語られた記録ではありません。反乱の動機を細かく創作することは避けつつ、どの側の資料を通して出来事を知っているのかに注意すると、読みの奥行きが生まれます。
水中だけの生物なのか
ショゴスは海中の仕事と強く結びついていますが、水の外で生きられないとはされていません。反乱の時期には水外でも生存できることを示し、後の寒冷化に際しては、陸上作業へ適応させられる個体も描かれます。
古のものたちが陸上での利用をためらった理由には、管理の難しさに見合う利益が少ないという判断もあります。生物として不可能だったことと、支配者側があえて行わせなかったことは区別が必要です。
ただし、原典から正確な耐熱・耐寒温度、乾燥に耐える日数などの数値を取り出すことはできません。水中と陸上の両方で活動する描写を、あらゆる環境に無制限に耐える性質へ広げないようにします。
声と模倣――「テケリ・リ」の不気味さ
洞窟の都市の記録では、後代のショゴスが古のものたちの声をまね、催眠的な指示だけでなく、話された命令に従って働くようになったと説明されます。模倣は体の形だけではなく、声にも及んでいます。
地下で響く「テケリ・リ」という声も、原典では過去の主人たちの発声をまねたものとして結びつけられます。その音を誰かの単なる鳴き声と聞くか、かつての支配者の声が別の存在から聞こえるものと理解するかで、不気味さが変わります。
また、点の集まりによる表現も言及されます。声の模倣と、言語や記号の説明を混同して、完全な人間の会話能力がある、あるいは何の表現能力もない、と極端にまとめないことが大切です。
古のものやクトゥルフと同じ存在ではない
ショゴスを造って使う側の古のものと、造られたショゴスは、原典では区別されています。南極の遺跡に関わる異形というだけで、両者を同じ種族として説明してはいけません。
さらに、作中で古のものたちと争うクトゥルフの落とし子も別の集団です。「クトゥルフ神話に出る」という広い括りは、すべてがクトゥルフ直属の配下だという意味ではありません。神格については、クトゥルフの記事も参照できます。
原典と後世・TRPGの設定を分ける
本記事では、『狂気の山脈にて』の英語本文を直接の根拠にしています。現代の翻訳文やゲームの説明文を転載せず、彫刻からの歴史の解読と、探検者が遭遇する場面を分けてまとめました。
後世の作品やTRPGで追加された個体の分類、人間への精密な擬態、能力値、攻撃回数、弱点などを紹介する場合は、作品名や資料の版を示す必要があります。体や器官の形を変えるという原典の性質だけから、あらゆる人物へ完全に化けられると断定することはできません。
原典中の地質年代や生命史も、作品が描く架空の歴史として読む必要があります。その年代をそのまま現代の地球科学の事実として紹介することは避けています。
ショゴスの怖さは、造られたものが制御を離れること
目が生まれては消える体や、通路を満たす大きさは、ショゴスの強烈な印象をつくります。しかし背景を読むと、都市を築いた労働、命令の蓄積、模倣と知性の発達が、その不気味な姿とつながっています。
これは本記事の読み方ですが、使う側が永久に管理できると思っていた存在が、自ら形を作り、意志を持つことに、この生物の重要な恐怖があります。主人の声をまねる響きは、過去の関係が消えずに残っていることも感じさせます。
ラヴクラフトが描く、人間の見方に収まりきらない存在を比べるなら、『宇宙からの色』の記事もあわせてお読みください。両者は別の存在ですが、身近な生物の分類だけでは捉えきれない描写を比較できます。
参照資料
H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness” 英語本文(The H. P. Lovecraft Archive)――生命の創造と労働、ショゴスの形態・知性・反乱、洞窟都市への移行、終盤の目撃と声の記述を参照。本文を独自に要約しています。


