地底の巨大な街で、黒い毛に覆われた巨人が音もなく近づいてくる。その頭には、人の顔とは向きの違う大きな口があります。ガグ(Gug、複数形 Gugs)は、H・P・ラヴクラフトの『未知なるカダスを夢に求めて』(The Dream-Quest of Unknown Kadath)に登場する架空の生物です。
ガグを特徴づけるのは、巨大さや異様な顔だけではありません。石造りの都市を持ち、表情で意思を伝え、狩りをしながら暮らす存在として描かれています。ここでは物語の筋を追うよりも、原典から読み取れる体のつくり、感覚、生息域、ほかの怪物との関係に焦点を当てます。
ガグとはどのような神話生物か
ガグが暮らすのは、夢の世界の地下に広がる領域です。原典では毛深い巨人たちとして語られ、地上の森と地底の都市を結ぶ石の扉が、彼らの生活圏を考える鍵になります。実在する土地の目撃伝承ではなく、作者が描いた幻想世界の住民として理解する必要があります。
同じ作品に登場する神々と、ガグという生物の集団は区別されています。ガグたちは神々に供犠をささげた過去を持ちますが、本文で彼ら自身が宇宙を支配する神格として扱われているわけではありません。
姿の特徴――縦の口と枝分かれした腕
口は頭の上から下へ走る
カーターが目にするガグの番人は、樽ほどもある頭と、左右に突き出した桃色の目を持っています。目の上には粗い毛の生えた骨の隆起があり、口には大きな黄色い牙が並びます。何より異様なのは、口が頭の上端から下端へ伸び、通常の顔とは違って縦方向に開くことです。
単に「牙の大きな巨人」とするだけでは、この描写の特徴が抜け落ちます。人間や獣の顔を拡大したものではなく、顔の構成そのものに見慣れない向きがある点が、ガグの印象を決めています。
一本の腕の先に二つの手
洞窟から最初に現れるのは、鋭い爪を備えた大きな手です。続いてもう一つの手が見え、両方が短い前腕によって同じ黒い毛の腕につながっていることがわかります。したがって、単純に肩から独立した腕が四本ある姿と、原典の枝分かれした構造とは同じではありません。
この場面の手の幅は二フィート半、番人が全身を伸ばした場合の高さは二十フィートと記述されます。換算すると、それぞれ約七十六センチ、約六・一メートルです。ただし、これは登場した番人の描写です。種族全体の平均や、すべての個体に当てはまる規格として数値を固定することは避けたいところです。
声を持たず、表情で話す
番人が仲間に警報を発するのではないかとカーターが恐れたとき、案内役のグールは、ガグには声がなく、表情によって話すと教えます。言葉を発する声がないことと、意思のやり取りがないことは別です。ガグは孤立した獣のようにだけ描かれているのではありません。
一方、眠っているガグたちのいる戸口からは、くぐもった鼻息のような音が聞こえます。「声がない」を「あらゆる物音を一切立てない」とまで広げると、この記述と食い違います。発声による会話、眠りに伴う音、追跡の不気味な静けさを分けて読むと、描写がつながります。
暗闇での視覚と鋭い聴覚
ガグは光のない地下の狩りに慣れており、暗い場所でも獲物を追うことができます。また、塔を登る者の素手や素足の音を聞きつけかねないほど、耳が鋭いと説明されます。地下の階段では、体の大きさだけでなく、慣れた地形と感覚の差が脅威になるのです。
ここから具体的な探知距離や、どんな遮蔽物も見通す能力まで導くことはできません。原典が示すのは、地底の闇で人間よりはるかに有利に動くという性質です。
地下都市とコスの塔
ガグの王国は、その全体が一つの都市と連続するように描かれます。丸い石の塔が灰色の地下空間へ高く伸び、巨大な墓石が林のように並びます。都市の戸口は三十フィート、約九メートルもの高さがあり、人間の尺度では建物の入口さえ途方もなく感じられます。
中心にあるのが、コスの印を掲げた塔です。内部の階段は地上の魔法の森に通じる石の扉へ続いています。一段がおよそ一ヤード、約九十センチという大きさのため、人間にとっては普通の階段を上がるようには進めません。
この建築の描写から、ガグが墓地や都市を持つ集団であることは読み取れます。ただし、政治制度や日々の仕事、家族関係まで本文で詳しく説明されているわけではありません。空白を現代の社会制度で埋めず、石造都市とその規模を確かな特徴として押さえるのがよいでしょう。
なぜ地上へ出てこないのか
作品中で語られる過去によれば、ガグはかつて地上の森に石の輪を築き、「その他の神々」とナイアーラトテップに奇怪な供犠をささげていました。ある夜の行為が地球の神々の知るところとなり、地下の洞窟へ追放されたとされています。
その出来事の詳細はここで具体的には明かされません。独自の儀式名や年代を補ったり、現実の宗教史と結びつけたりする根拠にはできません。ガグの来歴は、あくまで作品内で伝えられる説明です。
地上との境には鉄の輪の付いた大きな石の扉があり、ガグは神々の呪いを恐れて開けようとしません。ただし、塔や階段を通ることまで禁じられているわけではなく、逃げた獲物を最上部近くまで追うことはあります。移動できない区域と、恐れて越えない境界は区別が必要です。
グール・ガストとの関係
グールを恐れるが、絶対に近づけないわけではない
グールはガグの墓地を訪れ、その大きな死体を食料とします。本文では一体の埋葬されたガグがグールの共同体をほぼ一年養うほどだと語られ、巨体の規模が食生活の面からも示されます。ガグはグールをいくらか恐れ、自分たちの墓地から逃げることもあります。
しかし塔の階段のように、体格や地形がガグに有利な場所では、その恐れだけを頼りに安全を保証できないとも説明されます。「グールには決して攻撃できない」という絶対的な弱点に置き換えるべきではありません。グールそのものについては、『ピックマンのモデル』に登場するグールの記事も参照できます。
ガストは獲物であると同時に危険な相手
ガグは地下のジンの洞窟でガストを狩ります。しかしガストも一方的に食べられるだけではなく、ガグが眠る間に出てきたり、集団で番人に襲いかかったりします。巨体の捕食者であっても、周囲の生物との関係の中では不意を突かれるのです。
原典でガストが日光に耐えられないと説明される箇所を、ガグの性質と取り違えないことも大切です。名前の似た怪物が同じ地下世界に登場しますが、ガグ、ガスト、グールはそれぞれ別の存在として描かれています。
原典のガグと、後世の設定を分けるには
本記事が直接の根拠にしているのは、ラヴクラフトの英語原文です。縦に開く口、腕の構造、表情による会話、地下都市、神々の呪いといった特徴は、本文の場面や説明から確認できます。
これに対し、ゲームで必要になる能力値、攻撃回数、移動距離、遭遇時の数値的な効果などは、この小説の記述とは別に扱う必要があります。後世の作家の作品やTRPGで追加された設定を紹介する場合は、その作品名・資料名・版を添え、ラヴクラフトが記した内容と混ぜないようにします。ここでは特定のゲーム版のデータを採用していません。
また、異様な生物だからといって、すべてを同じ神格の直属の配下と見なすこともできません。原典で示された供犠の相手と、あらゆる場面に通用する指揮命令関係は別の問題です。
ガグの怖さは、巨大さと生活の気配にある
ガグには、縦の口や枝分かれした腕という一目でわかる異形性があります。その一方で、住む街があり、墓地があり、番人が眠り、仲間と表情で話します。人間から大きく離れた体を持ちながら、そこに彼ら自身の日常があることが、不気味さを深めています。
これは本記事の読み方ですが、巨大な階段を人間が苦労して登る描写は、その街が最初から人間のための場所ではないことを実感させます。ガグの図鑑的な特徴を押さえるときは、体の形だけでなく、その体に合った都市と、地下の生物たちとの関係まで見ると輪郭が鮮明になります。
同じ夢の世界の別の側面を知りたい方は、夢の都市セレファイスや、神々をめぐる『その他の神々』の記事もあわせてお読みください。
参照資料
H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath” 英語本文(The H. P. Lovecraft Archive)――ガグの来歴、都市、番人の体の描写、グール・ガストとの関係、地上へ続く塔の記述を参照。本文を独自に要約し、既存の日本語訳は転載していません。
同作品の書誌情報(The H. P. Lovecraft Archive)――原題および掲載・刊行情報の確認用。


