見慣れたゲーム画面が、こちらの行動を知っているかのように変わっていく。BEN Drowned(ベン・ドラウンド)は、『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の古いカートリッジをめぐるネット怪談です。作者はAlex Hall。呪われたゲームを発見した人の相談という形で、文章と動画を組み合わせた創作として読めます。
怪異図鑑では、怪談の中で起きる異変と、作者が説明した制作方法を分けて紹介します。実際のゲームに怪異が潜んでいるという報告ではありません。以下は物語序盤の内容に触れます。
作者の証言から分かるネット上の出発点
Arcade Attackの作者インタビューで、Hallは、2009年に読んだネット怪談や『ムジュラの仮面』の物悲しい雰囲気から着想したと説明しています。最初の文章と動画を約一日半で作り、怪しいゲームを手に入れて助言を求める人物になりきって、ゲーム関係の掲示板に投稿したといいます。
同じインタビューでは2010年当時の反応にも触れています。来歴を調べる際には、この作者の回想と、後に作品を掲載したサイトの日付を区別できます。たとえば今回本文を参照したCreepypasta.comの表示日は2017年12月19日ですが、それを作品の誕生した日として扱うことはできません。
物語の入り口:前の持ち主の名前が残るゲーム
Creepypasta.comに再録された作品本文では、語り手が老人からゲームのカートリッジを受け取り、BENという名前のセーブデータを見つけます。遊び始めると、登場人物の呼びかけや場面の移り方がおかしくなり、見慣れたゲームが次第に不気味なものへ変わります。
序盤の異変には、誰もいない街、逆向きの音楽、後をつけるように現れるリンクの像などがあります。ここで紹介しているのは創作中の出来事です。語り手が「故障なのか、それ以外なのか」と判断を揺らすところに、読む側も巻き込まれていきます。
映像はどう作られたのか
Hallは前掲インタビューで、エミュレーターとゲームの動作を変更するコードを使い、音や場所、動きを操作して動画を作ったと明かしています。文章に映像を添えたことが、現実らしさを生んだとも振り返っています。
この説明を踏まえると、動画は怪談の外から偶然得られた証拠ではなく、作者が文章と一緒に組み立てた表現です。映像の制作方法を知ってから読むと、何を見せるかだけでなく、文章を先に読ませることで画面の意味をどう変えているかにも注目できます。
画面を見せても、不安が消えない理由
本記事では、読者が「自分でも確かめられる」と感じる仕掛けに、この作品の面白さを見ます。文章だけなら語り手の見間違いを疑えるのに、画面が添えられると、今度はその映像をどう解釈するかという問題に移ります。
また、ゲームを知っている読者ほど、いつもと違う配置や動作に気づきやすくなります。知らない怪物が最初から現れる怖さとは違い、知っているはずの規則が少しずつ頼れなくなる怖さです。これは本記事の読み方であり、作者の意図をすべて断定するものではありません。
ゲーム本編と怪談、再録ページの違い
BEN Drownedを読むときは、題材になったゲーム本編と、Hallが作った怪談の設定を分けると整理しやすくなります。カートリッジをめぐる人物や出来事を、ゲーム本編の公式の筋書きとして説明するのは適切ではありません。
参照した再録ページにも、編集側の紹介文と、怪談本文を示す見出しがあります。本記事のあらすじは本文の序盤を対象としています。ネット上で見かけたイラストや後付けの説明についても、どの版・どの作者の表現なのかを確かめると、元の怪談との差を読み取れます。
Jadusableという語り手と、作者Alex Hall
Redditでの作者本人の公開Q&Aで、HallはJadusableを自分自身と距離を置いて書いた登場人物だと説明しています。本人ならどうするかではなく、その人物ならどう反応するかを考えたという証言です。
掲示板の相談文は、投稿した人の身に起きた出来事として受け取りやすい形式です。しかし、この作品ではその相談する人物も創作の一部です。作中の判断や恐怖をそのまま作者の体験談と読むのではなく、なぜ語り手がその時点で異変を疑い、どの情報を相手に伝えるのかを見ると、文章の演出を追えます。
読者の反応を受けながら作られた続き
同じQ&AでHallは、初期の続編について、前の回への反応を読んでから次の文章を書き、動画を制作して投稿する流れを振り返っています。回によって違いはあったとも述べているため、全回が厳密に同じ日程で作られたとは言えません。
この制作順序は、完成した長編を分割して配信する場合とは違う読みどころを示します。後から一続きの再録で読むと展開をすぐ確かめられますが、更新を待つ読者には、まだ分からないことを考える時間があります。本記事では、その待ち時間も相談形式の怖さと相性がよいと考えます。ただし、作者が反応を読んだことから、個々のコメントがどの場面を変更させたかまでは断定できません。
参加する感覚が生む、ゲーム怪談の広がり
HallはQ&Aで、視聴者の関与を重視したことを作品の特徴として挙げています。また、視聴者がBENへ直接働きかけるゲームの構想について、物語への参加感を広げたかったと説明しています。これはその時点の構想を振り返った発言で、現在利用できるゲームの案内ではありません。
ここで、怪談の題材である『ムジュラの仮面』、それを加工して見せる動画、読者が謎について話し合う行為を分けると、参加の意味が見えます。動画を見る人が語り手のカートリッジを直接操作するわけではありません。それでも、異常な場面に気づき、解釈を出し合うことで、自分も相談に加わっている感覚を持てます。映像は完成した答えだけを示すのではなく、読者が検討する材料にもなるのです。
ほかのネット怪談との読み比べ
スレンダーマンと比べると、画像や映像に記録らしい文章を添えることで、存在感を生み出す方法が見えてきます。いずれも、ネットにある資料を読んでいるような感覚が作品への入り口になります。
きさらぎ駅では、異変を伝える投稿と周囲の応答が読者を引き込みます。BEN Drownedも助言を求める形から始まりますが、ゲームの映像を読み解く行為が加わる点を比べると、それぞれの表現の違いを楽しめます。
参照資料
Arcade Attack:Alex Hall本人インタビュー/Creepypasta.com:Ben Drowned(作者名付き再録版。あらすじは作品本文を参照)


