バーバ・ヤガとは?臼と杵・櫛の逃走・ワシリーサの髑髏の火を読む

白髪の老婆バーバ・ヤガが木の臼に乗り、長い杵を握って薄暮の森を進む。臼の後ろには枝の箒が伸びている。 怪異

『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』の追加コンテンツで、ララが向き合うバーバ・ヤーガ。森の魔女という印象から原伝承へ戻ると、臼に乗る老婆、向きを変える小屋、少女を救う人形、燃える髑髏が現れます。作品の演出と昔話の筋を分けながら、その不思議な道具と役割を読んでみましょう。

白髪の老婆バーバ・ヤガが木の臼に乗り、長い杵を握って薄暮の森を進む。臼の後ろには枝の箒が伸びている。
臼に乗り、杵で進み、箒で通った跡を消すバーバ・ヤガに着想した挿絵。老婆の装束、道具の形や森の景観は創作で補っています。

『トゥームレイダー』に登場するバーバ・ヤーガ

『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』には、「バーバ・ヤーガ:魔女の住み処」という追加コンテンツがあります。日本語名はスクウェア・エニックスの公式発表でも確認できます。[資料3]

シリーズ公式サイトの解説は、この作品のバーバ・ヤーガを、伝承と幻覚を組み合わせた存在として説明しています。ララの前に浮かぶ鉄の大釜、髑髏の装飾など、古い怪異を冒険ゲームの対決へ作り替えた演出が見られます。[資料4]

このゲームを手がかりにするときは、戦闘の仕掛けや幻覚を、昔話すべてに共通する設定にしないことが大切です。以下ではラルストンの英語版を読み、老婆が何に乗り、誰を追い、何を渡すのかを確かめます。昔話の結末にも触れます。

原伝承への入口:森に住む老婆

バーバ・ヤガは、ロシアの昔話に登場する、森の奥に住む恐ろしい老婆です。臼に乗って杵で進み、箒で跡を消す姿や、鳥の脚に支えられた小屋が印象的ですが、物語によって役目は変わります。人を食べようと追いかけることもあれば、難しい仕事を課し、不思議な贈り物を持たせることもあります。

本記事では、W・R・S・ラルストンの英訳・編纂による伝承集から「The Baba Yaga」と「Vasilissa the Fair」を中心に読みます。同じ呼び名の怪異が、誰を追い、何を与えるのか。二つの物語を分けて見ると、単純な悪役だけでは捉えきれない姿が見えてきます。

バーバ・ヤガとは?まず押さえたい特徴

  • 登場する世界:ラルストンが紹介するロシアの昔話。
  • 姿:老婆として現れ、「骨ばった脚」に当たる呼び名を伴う話があります。
  • 住まい:森の小屋。鳥の脚で向きを変える家や、人骨の柵を備えた屋敷も語られます。
  • 移動:臼に乗り、杵で進み、箒で通った跡を消します。
  • 人との関係:捕食者、追跡者、仕事を課す家の主など、話ごとに異なります。

これらは伝承集に書かれた特徴です。一つの物語にすべての要素が登場するわけではなく、現実の生物の観察記録でもありません。たとえばワシリーサの話で詳しく描かれるのは、人骨の柵と光る髑髏です。「必ず鶏の脚の家に住む」という固定設定にまとめると、個々の話の違いが薄れてしまいます。[資料1]

資料の位置づけ:採話を英語で紹介した伝承集

ラルストンは序文で、アファナーシエフ、フジャコフらの刊行した話集をもとに、ロシアの昔話を英語で紹介したと説明しています。したがって、ここで読むのは口承そのものの録音や、ラルストン自身の現地目撃談ではなく、収集・刊行・翻訳を経た文章です。

「The Baba Yaga」の注161には、アファナーシエフの第1部第3話b、ヴォロネジ県由来という出典が示されます。「Vasilissa the Fair」の注182は、同じく第4部第44話を挙げます。この番号はラルストンの参照版のもので、現代の別の版の通し番号とそのまま置き換えることはできません。[資料1]

ロシア国立電子図書館の書誌では、ラルストンの『Russian Folk-Tales』ロンドン版は1873年刊行と確認できます。本記事で本文を読む電子版は、別題『Russian Fairy Tales』のニューヨーク、Hurst & Co.版を収めたものです。書誌上の刊行年は本の歴史であり、物語が初めて生まれた年を示すものではありません。[資料2]

臼と杵、鳥の脚の小屋は何をするのか

ラルストンの総説には、鉄の長い鼻を持つ姿、鳥の脚に載った小屋の描写があります。小屋に適切な言葉をかけると、森へ向いていた入口がこちらへ回るといいます。四人の勇士の話でも、イワンが呼びかけると小屋が向きを変え、扉や窓が開きます。

ここで印象的なのは、怪異の身体だけでなく、家や道具にも働きが与えられていることです。入口を変える家、乗り物になる臼、進むための杵。箒も登場しますが、この資料では主に跡を掃き消す役です。臼に乗る姿を、箒にまたがる魔女の絵と重ねすぎないようにしたいところです。[資料1]

「The Baba Yaga」:親切が逃げ道をつくる

この話の少女には名前が示されません。継母は父親の留守中、針と糸を借りてくるよう少女を自分の姉妹のもとへ送ります。その相手がバーバ・ヤガです。少女は先に自分の実の叔母を訪ね、犬や猫、扉、白樺への対処を教わります。

到着すると、ヤガは少女を機織りに座らせ、召使いに風呂を沸かすよう命じます。目的は少女を食べることでした。少女は召使いに布を贈って準備を遅らせてもらい、猫にはベーコンを与えます。猫は礼として櫛とタオルを渡し、逃げ方を教えます。

逃走中は犬にパンを与え、扉の蝶番に油を差し、白樺にはリボンを結びます。ヤガが少女を引き止めなかった者たちを責めると、それぞれが、主人からは受けたことのない心遣いを少女から受けたと答えます。怖い屋敷全体が、少しずつ少女の味方に変わるのです。

追ってくるヤガに対し、少女が投げたタオルは川に変わります。しかしヤガは牛を連れてきて水を飲み干させ、追跡を再開します。次に投げた櫛は深い森となり、ヤガは木々をかじっても通り抜けられず、引き返します。この話では、森が最後の障壁です。父親のもとへ戻った少女の説明を聞き、父が継母を銃で殺すという苛烈な結末も記されています。[資料1]

ワシリーサ:難題の先に待つ髑髏の火

「Vasilissa the Fair」では、継母とその娘たちがワシリーサを火をもらいに行かせます。少女には、亡くなる前の母から授かった小さな人形があります。食べ物を与えて相談すると、人形は彼女を助けます。

森の屋敷は人骨の柵に囲まれ、髑髏の目が夜を照らします。ヤガは火を渡す条件として家事を命じ、できなければ食べると脅します。小麦に混じった別の種を除く仕事や、ケシの種から土をより分ける仕事を、人形が助けて成し遂げます。

少女が見かけた白・赤・黒の騎手について尋ねると、ヤガはそれぞれを自分の明るい昼、赤い太陽、暗い夜と説明します。一方、屋内に現れる三組の手について、少女は問いません。ヤガはその慎重さを認めますが、仕事を終えられるのは母の祝福のおかげだと聞くと、祝福された者は置きたくないと言って少女を外へ出します。

その際に渡されるのが、棒に載せた、燃える目を持つ髑髏です。家へ持ち帰ると、その火は継母と娘たちを焼き、ワシリーサだけは傷つけません。続く結末では、少女の作る上質な布と仕立てたシャツが王との結婚につながります。人形はその後も彼女のそばに残ります。[資料1]

追う老婆と、贈り物を渡す老婆

二つの話では、主人公も逃れ方も異なります。名前のない少女は、助言と贈り物で周囲を味方にし、川と森を作って逃げます。ワシリーサは母の人形に助けられて難題を果たし、ヤガから火を受け取って帰ります。櫛とタオルをワシリーサの持ち物として混ぜないことが大切です。

また、ヤガが髑髏を渡すからといって、初めから善意の保護者だったと決めることもできません。作中では食べるという脅しが続き、仕事の出来がよくて叱れないことを不満に思う描写さえあります。危険な相手とのやり取りが、結果として少女の境遇を変える。そのねじれが物語の読みどころです。

日本の山姥の昔話や能も、山の老婆という印象を越えて、資料によって役割が変わります。比較するなら、人を食べる怖さ、山や森の住まい、人との応答に注目すると面白いでしょう。ただし、似た要素だけで同じ起源だと断定はできません。

まとめ

バーバ・ヤガを知る鍵は、有名な姿の一覧だけでなく、どの話で何をしているかを読むことです。臼と杵、向きを変える家、周囲への親切、母から受け継ぐ人形、恐ろしい火の贈り物。それぞれの道具や行動を物語に戻すと、森の老婆が主人公の人生を変える存在として立ち上がってきます。

参考資料

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