くねくねとは?ネット怪談の成立過程と『裏世界ピクニック』の違い

夏の田園の遠くに立つ白くねじれた人影 怪異

田んぼの向こうで、白いものが不自然に動いている。遠くから眺めているだけなら何なのか分からないが、正体を確かめようとすると恐ろしいことが起こる――。くねくねは、見ることと知ることが危険に結びつくネット怪談です。

田舎を舞台にしているため昔からの伝承にも見えますが、成立を調べるとウェブ上の投稿や改作の経緯が見えてきます。ここでは、その過程を調べた学術論文と、アニメの公式紹介を手がかりに整理します。

発祥をたどる:前身の話と「くねくね」

廣田龍平の論文「疑似的な声の非人間的転回試論」は、前身の話「分からない方がいい……」が2000年3月5日に怪談投稿サイトへ掲載され、2001年7月7日に2ちゃんねるへ転載された経緯を記しています。

同論文によれば、「くねくね」という題名の話は2003年3月29日に投稿されました。投稿者は前身の怪談と子どものころの体験を混ぜた旨を説明しており、論文はこの話を創作として扱っています。これは研究がたどった投稿の来歴で、怪異が実在した年代を示すものではありません。

物語の特徴:見えているのに分からない

論文が紹介する話では、兄弟が遠方の白いものに気づき、兄が双眼鏡で確認した後に変わってしまいます。弟には正体が明かされず、知ること自体が不安として残ります。ここで重要なのは、怪異の外見が細部まで説明されないことです。

正体を知った人が説明してくれれば、読者も何を恐れるべきか判断できます。しかし、その説明が届かないと、白いものは見えているのに理解はできません。距離を縮めたい好奇心が、近づきたくない気持ちへ変わる。この入れ替わりが、本記事で注目する読みどころです。

田園風景が、安心できない場所に変わる

怪談というと、暗い廃屋や深夜の道を思い浮かべることがあります。くねくねを読む際には、遠くまで見通せる風景の中でも、分からないものが残る点に目を向けられます。視界が開けていることと、目の前のものを理解できることは同じではないのです。

また、双眼鏡のような道具は、普通なら情報を増やすために使います。その行為が恐怖へ結びつく物語では、「詳しく調べれば安心できる」という期待が崩れます。これは物語の仕組みの考察であって、現実の景色や物体を見ることに同じ作用があるという説明ではありません。

『裏世界ピクニック』のくねくね

TVアニメ『裏世界ピクニック』の第1話「くねくねハンティング」では、紙越空魚と仁科鳥子が怪異から逃れるために行動をともにします。公式あらすじは、空魚が探検する「裏世界」での遭遇と、二人の出会いを紹介しています。

この作品では、怪異との遭遇が継続する登場人物の物語に組み込まれています。ネット怪談の兄弟の話と、空魚・鳥子の冒険をひと続きの出来事として読む必要はありません。どちらのくねくねを説明しているのか、作品名を添えることで違いが見えやすくなります。

公式の短いあらすじは、姿や能力、対処法のすべてを示すものではありません。アニメの演出や作中の仕組みを紹介するときも、確認できた場面に即して読むのが確実です。

作者の構想では「白うねり」だった

好書好日の宮澤伊織インタビューでは、『裏世界ピクニック』は冒険SFの構想から始まり、当初は既存の怪談をアレンジして使う予定だったと説明されています。くねくねには「白うねり」という呼び名も考えていたそうです。この名称は作者が振り返った制作途中の案で、古い伝承に残る別名として紹介されているわけではありません。

この証言からは、同じ怪談を取り込む場合にも、作者が名前や物語での役割を選び直していることが分かります。ネットで語られた話が、完成済みの設定資料としてそのまま別作品へ移るとは限りません。名称の一致だけで能力まで共通と判断せず、どの作品の記述なのかを確かめる必要があります。

知りたいSFと、分からないホラー

同じインタビューで宮澤は、SF・ホラー・冒険小説を作品の柱に挙げています。また、未知の現象に説明を与える面白さと、正体が分からないからこその恐ろしさを両立させる難しさにも触れています。

この作者の説明を手がかりに、本記事では、くねくねを使った冒険の読みどころを二つの方向から考えます。一つは、登場人物が観察し、考え、行動することで先へ進む楽しさ。もう一つは、理解すること自体が危険に見える怪談の不安です。調べたい気持ちと、これ以上知りたくない気持ちが同時に働くところに、題材と冒険形式の緊張があります。これは本記事の考察で、怪異の仕組みを確定する解説ではありません。

小説・漫画・アニメで確認する場所

ガンガンONLINEの漫画版公式ページは、原作を宮澤伊織、作画を水野英多、キャラクター原案をshirakabaと表示し、「くねくねハンティングI」を掲載しています。作品紹介では、空魚と鳥子が研究や人捜しなどの目的で裏世界へ踏み込む設定が示されています。

小説の文章、漫画の絵、アニメの動きや音では、受け手に届く情報が異なります。くねくねの図像を調べる場合も、漫画やアニメで描かれた姿は、その版の表現として扱えます。ネット怪談の白いものに、後の映像作品で見た輪郭や動作を無意識に重ねていないかを意識すると、文章が明かしている範囲と、想像で補っている部分を分けて楽しめます。

正体を一つに決めるより、版の違いを読む

くねくねに興味を持ったときは、「何という妖怪なのか」という問いに加え、「どの文章を読んでいるのか」という問いが役立ちます。前身、改作、別作品での登場を分ければ、名前が同じだからといって細部まで一致するとは限らないことが分かります。

怪異を知る家族の反応が怖さに関わる話として、八尺様とも読み比べられます。日常の場所が不穏な空間になる怪談なら、きさらぎ駅も参考になります。こうした比較は、直接の起源や同一の怪異であることを意味しません。

参照資料

廣田龍平「疑似的な声の非人間的転回試論:ある『怖い話』の発生と流行にみる〈電承〉」『口承文藝研究』41号(2018年)、104–116頁(成立過程は106–107頁)/TVアニメ『裏世界ピクニック』公式:第1話

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