アブホース(Abhoth)は、クラーク・アシュトン・スミスの小説『The Seven Geases』に登場する存在です。地下の淵を満たす灰色の塊から、さまざまな姿の生物が分かれていきます。見た目は不定形ですが、人間を調べ、食べるかどうかを判断し、言葉を使わずに意志を伝えます。
本記事では、原典に描かれる身体、子孫、狩人との対面を中心に整理します。実在の神や生物の記録ではなく、架空の地下世界を舞台とする文学作品の解説です。物語後半の展開に触れます。
アブホースがいる場所
狩人ラリバル・ヴーズは、逆らえない命令であるゲアスによって、地下の存在たちを次々に訪ねることになります。その旅の終盤、アーキタイプたちに送り出されて、アブホースの洞窟へ向かいます。
アブホースは泥の縁を持つ淵にいて、灰色の身体がそのほとんどを埋めています。周囲には熱い蒸気や強い臭いがあり、足元にはそこから生じた生物が動いています。神殿の祭壇や玉座よりも、生命が絶えず生まれる場所として描かれています。
ただし、この洞窟を現実の地理へそのまま当てはめることはできません。作中の地下世界には、神格、魔術師、異なる性質の生物がそれぞれの領域を持っており、アブホースの棲み処もその一つです。
灰色の身体から生まれ、再び飲み込まれる子孫
身体は震え、膨らみ、分裂を続けています。そこから出てくるものは同じ形ではなく、一本脚のヒキガエルを思わせるもの、多くの尾を持つ虫のようなもの、ひれのあるものなど、輪郭がばらばらです。
淵から十分に離れられない子孫は、親の身体に開く口へ飲み込まれます。一方、離れていくものは次第に大きくなります。アブホースの周囲では、誕生と捕食が切り離されていません。
ここでいう子孫は、人間の家族のように育てられる存在ではありません。本文の描写に沿えば、親から分かれたものが動き出し、逃げ延びたものが成長する関係です。親が一体ずつ目的を決めて設計したり、軍隊として命令したりする場面は示されません。
本記事の読みでは、この怪異の怖さは、どれが完成した姿なのか分からないことにあります。人間なら一つの身体の部品と思うような形が、それだけで動き始めます。見慣れた「個体」の区切りが、ここでは頼りになりません。
調べるための手も、その場限りの身体
狩人を迎えたアブホースは、身体から突起を伸ばし、その先を平たく水かきのある手のような形にします。その手で狩人の足元から頭まで調べた後、突起は本体から離れ、ほかの子孫とともに暗がりへ動いていきます。
この場面では、手は最初から備わった固定の腕ではありません。相手を調べるために現れ、役目を果たすと独立して去ります。生物を生み出す働きと、必要な身体の形を作る働きが、同じ流動的な身体の中でつながっています。
そのため、アブホースを人型の巨人や、決まった数の触手を持つ怪物として図示すると、原典の特徴を狭めてしまいます。灰色の塊という全体像はあっても、身体の部位が常に同じ位置にあるとは限りません。
人間を食べない理由
アブホースの返答は、音声ではなく狩人の脳内に意味が届く形で描かれます。姿だけを見れば意識のない生き物のようにも思えますが、実際には相手を観察し、自分の経験に照らして判断します。
そして狩人を、自分の親類や子孫とは認めません。未知のものを食べて消化を危うくしたくない、という理由で受け入れを拒みます。狩人が助かったのは、人間の尊厳を尊重されたからでも、特別な英雄だと認められたからでもありません。
この対面では、人間の側から見れば怪物であるアブホースが、逆に人間を理解しがたい異物として扱っています。相手に恐れられるほど強いのではなく、用途が分からないために遠ざけられる。その扱いが、旅人の立場の小ささを際立たせます。
古い存在でも、何もかも知っているわけではない
アブホースは、自分が最も古い神々と同時代の存在だと述べます。しかし、狩人が何者でどこから来たのかは分からず、人間のいる外の世界についても、かすかに聞いたことがある程度に語ります。古さと全知は、同じ性質として描かれていません。
また、アーキタイプたちがアブホースをあらゆる宇宙的不浄の父母として紹介することと、具体的にどの生物の祖先なのかが確定することも別です。その呼び方だけから、地上の生命をすべて創造したという系譜まで補うことはできません。
原典には、現実の医学や生物学に引き寄せれば不適切になる形容もあります。本記事では、それらを作者が架空の恐怖を描くための表現として扱い、実在の人の身体の特徴や障害に結び付けません。
追い返された後にも続く危険
アブホースは狩人に、外の世界へ向かうよう新たなゲアスを課します。しかし、それは安全な帰還の保証ではありません。案内役の鳥は、休息する狩人を子孫の襲撃から守り、その後も旅を導きます。
後を追う子孫は移動しながら成長し、帰路の脅威になります。親が狩人を食べないと決めたことと、周囲の生物まで狩人を見逃すことは別なのです。アブホース一体の判断だけでは、その領域全体の安全は決まりません。
この違いを押さえると、親と子孫を一つの意志で動く群体と決めつけずに読めます。原典が見せるのは、中心にいる存在との対話が終わっても、そこから生まれた危険が周囲へ広がっている光景です。
ショゴスなどの不定形の怪異との違い
輪郭を変える怪異を読み比べたい場合は、ショゴスの記事も参考になります。ただし、不定形という見た目だけで、アブホースと同じ種族や同じ能力体系にまとめることはできません。
古のものの記事と併せて読む際も、誰が何を作ったと記述されるのかを作品ごとに確認することが大切です。アブホースについてまず押さえたいのは、身体の分裂、子孫の成長、そして未知の人間を選別する判断という、この原典で実際に描かれる働きです。
専用画像は、灰色の塊と周囲の小さな生物をもとにした想像図です。洞窟の構図、光の色、個々の輪郭は創作で補っており、公式設定画や実在のものを撮影した画像ではありません。
参照した原典
Clark Ashton Smith, The Seven Geases(Wikisource掲載原文)。アーキタイプたちによる紹介から、アブホースの洞窟での対面、帰路での子孫の追跡までを参照しました。本文の描写と登場人物の発言を区別し、独自の文章で解説しています。


