ブラウン・ジェンキンとは?人面の鼠の姿・四つの手・魔女との関係

傾いた屋根裏の壁穴のそばで、人間めいた髭のある顔と手を持つ鼠状のブラウン・ジェンキンがうずくまるのイメージイラスト クトゥルフ神話・怪奇文学
ブラウン・ジェンキンのイメージイラスト。

ブラウン・ジェンキン(Brown Jenkin)は、H・P・ラヴクラフトの『魔女の家の夢』(The Dreams in the Witch House)に登場する架空の存在です。大きな鼠ほどの体に、人間を思わせる髭のある顔と、小さな人の手のような四肢を持ち、魔女キザイア・メイスンに付き従います。

巨大な神や軍勢とは異なり、この怪物の怖さは、壁の穴や寝床のそばへ入り込める小ささにあります。本記事では、姿・声・魔女との関係・異空間での役割を原作から整理します。作中の噂、主人公の夢の体験、ほかの人物が認める痕跡は区別して扱います。終盤の展開にも触れます。

ブラウン・ジェンキンとは――魔女に付き従う固有の存在

舞台は架空の町アーカムにある古い家です。学生ウォルター・ギルマンは、かつて魔女が住んでいたとされる屋根裏部屋に暮らし、眠るたびに奇妙な空間をさまようようになります。ブラウン・ジェンキンは、その家にまつわる話にも、彼が体験する悪夢にも現れます。

原作でこの名が指すのは、名前を与えられた特定の怪物です。同じ姿の群れが住む町や、繁殖する種族の生態が紹介されるわけではありません。「鼠に似た使い魔」という説明はできますが、ブラウン・ジェンキンという種族の標準的な能力表へ広げるには根拠が足りません。

キザイアに関する話にはセイラムの裁判や古い証言が組み込まれています。しかし、ここで読めるのは小説内に構成された記録や伝承です。実在の裁判で人面の鼠が確認されたという歴史資料として扱うことはできません。

姿――鼠ほどの体、人間に似た顔、四つの小さな手

序盤の説明では、大きさは大きな鼠を超えず、長い毛を生やした鼠状の体を持つとされます。ところが顔は、鋭い歯と髭を備えた、邪悪な人間の顔を思わせるものです。足先も普通の鼠とは違い、小さな人の手のようだと記されます。

後の場面では四つの小さな手の器用さが強調され、黄色い牙も描かれます。人間の顔を動物の体につけただけの静的な異形ではありません。指す、つかむ、身を支えるといった動作の中に、人間らしい意図が見えてくる存在です。

人間のような顔といっても、人の頭がそのまま鼠の胴に乗っていると寸法まで定められているわけではありません。身長や体重の数値、指の本数などもここでは固定されていません。図像化するときは、鼠ほどの体格、長い毛、人面、手のような四肢という特徴を中心にし、補った細部は想像として扱うのが適切です。

鳴き声だけではない――笑い、言葉、儀式への応答

ブラウン・ジェンキンには、甲高く忍び笑いをするような声が繰り返し結び付けられます。音がするだけで姿がはっきり見えない場面もあり、壁の向こうの物音が、単なる鼠の生活音ではないかもしれないという不安を生みます。

序盤の町の話では、あらゆる言語を話すとも伝えられます。ただし、これは作中の伝承として示される説明です。物語が世界中の言語を一つずつ確かめて、完全な語学能力を証明するわけではありません。

一方、ギルマンの体験の中では、アザトースやナイアルラトホテップの名を発し、儀式の言葉を継ぎ、魔女がそれに応じる場面があります。原作の描写から直接読み取れるのは、少なくとも意味のある言葉や儀式のやり取りに関わる知的な存在だという点です。

キザイア・メイスンとの関係――使者であり協力者

町に伝わる話では、ブラウン・ジェンキンは魔女と悪魔との間で伝言を運び、魔女の血を吸って養われるとされます。こうした説明は、魔女のそばにいる動物的な使い魔という像を作っています。ただし、血を吸うことが生存に必須なのか、ほかに何を食べるのかまで体系的に説明されてはいません。

物語中では、魔女とともにギルマンへ近づき、移動に同行し、危機の際には魔女を助けようとします。さらに儀式へ積極的に加わり、魔女が別の行動をしている間にも独自に動きます。単に主人の肩や足元にいる飾りのような動物ではなく、目的を共有する協力者として読むことができます。

ギルマンは、その小さな顔がキザイアに似ていることにも気づきます。しかし、似ているという描写だけで、魔女が産んだ息子であるとか、特定の術で作った存在であるとか、その出生を確定することはできません。原作が明かしていない由来を、顔の類似から補わないことが大切です。

異空間での役割――進む方向を示す小さな案内者

ギルマンの夢では、普段の部屋とは異なる幾何学的な空間が広がります。そこには泡の集合や小さな多面体のようなものが現れ、やがて魔女とブラウン・ジェンキンの姿を伴う場面へつながっていきます。小さな怪物が前足で方向を示し、ギルマンを導く描写もあります。

このため、ブラウン・ジェンキンは不思議な道筋を知る案内者として重要です。ただし、どこからでも好きな場所へ一瞬で移動できる、どんな壁でも無条件に通り抜けられる、といった万能の能力まで明記されているわけではありません。移動は、魔女、角度、異なる空間、ギルマン自身の感覚と結び付いて描かれます。

数学や空間の理論も登場しますが、それは小説が怪異を構成するための仕掛けです。現実の幾何学を学べば同じ入口を開ける、という科学的説明ではありません。日常の感覚が異界へ接する作品としては、感覚を変える装置を扱う『彼方より』のティリンガストの実験と読み比べると、それぞれの境界の越え方の違いが見えます。

鼠穴と寝床――小ささが脅威になる理由

屋根裏の壁や床には鼠の気配があり、ギルマンは穴をふさごうとします。それでも新しい穴や物音が現れ、住む場所を変えても不安が消えません。ブラウン・ジェンキンは、巨大な扉を破る怪物とは違い、人が見過ごす隙間を恐怖の入口に変えます。

もっとも、家には普通の鼠もいるため、すべての穴や物音をブラウン・ジェンキン一体の仕業だと断言することはできません。普通の害獣の気配と、何かが考えて行動しているような気配が重なるところに、この家の不気味さがあります。

終盤には、魔女を助けるためにギルマンの足首へ噛みつく場面があり、彼が部屋で発見された際には足首の傷も認められます。夢の中の出来事に身体の痕跡が対応するため、単なる寝覚めの悪さとして片付けにくくなっていきます。

魔女が倒れても終わらない――結末に残る痕跡

ギルマンが魔女を倒したと思う場面の後にも、ブラウン・ジェンキンの気配は続きます。使い魔という呼び方から、主人が死ぬと必ず同時に消えると決めることはできません。後にギルマンが命を落とす夜には、寝床から鼠に似たものが逃げ出す姿を複数の人物が目撃します。

ただし、床に残った跡を四つの小さな人の手の跡だと見る人物がいる一方、ほかの者はそこまで認めません。原作は、異常な痕跡があることと、全員が同じ解釈へ達することを分けています。

さらに家の解体時には、長い茶色の毛を伴う異様な鼠状の骨格が発見されます。その手足には物をつかめる特徴があり、頭骨は角度によって小さな人間の頭骨を思わせると噂されます。この部分にも、学内から詳しい情報が出てこないことや、発見者の語りを通して伝わるという距離があります。

こうした結末は、悪夢の体験だけで終わらず、後から見つかる物の形によって怪物の像を読者へ戻します。一方で、ブラウン・ジェンキンが最終的にいつ、何によって死んだのかは、能力図鑑のように明快な原因一覧としては示されません。鼠の駆除や建物の崩壊の記述を、一つの確定した死因へまとめるのは慎重であるべきです。

巨大神とは違う、身近な異形としての怖さ

ブラウン・ジェンキンは、宇宙全体を支配する神格として描かれてはいません。それでも、その声や案内は、魔女の儀式と、ギルマンが恐れる広大な異空間を結び付けます。小さな鼠穴の先に、日常の尺度では捉えられない世界が続いているという落差が特徴です。

作中で名を発せられるアザトースと比べると、ブラウン・ジェンキンは主人公へ直接近づき、指を動かし、笑い、噛みつく存在です。本記事の読みとしては、宇宙的な恐怖を一人の生活や身体のすぐそばまで運んでくる役割に、その独自性があります。

後の小説、映像、ゲームで姿や血縁、能力が追加される場合は、それぞれの作品の設定として区別する必要があります。原作を基準にするなら、鼠に似た小さな体、人間めいた顔と手、言葉と儀式への関与、魔女との協力、そして家に残された曖昧な痕跡が、この存在の輪郭になります。

参照した原典

H. P. Lovecraft, The Dreams in the Witch House(The H. P. Lovecraft Archive掲載原文)。序盤の外見と伝承、ギルマンの夢と儀式、終盤の目撃・家の解体場面を参照して独自にまとめました。作中の古記録や目撃談は、実在の怪異を裏付ける資料としてではなく、小説の記述として扱っています。

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