ヨグ=ソトース(Yog-Sothoth)は、ラヴクラフトの怪奇小説に登場する架空の神格です。『ダニッチの怪』では、人間の世界とその外側を結ぶ門、その鍵、門の守り手として語られます。巨大な怪物が一つの場所に住んでいるという像よりも、空間や時間の境界そのものに関わる存在として捉えると、原作の特徴が見えやすくなります。
ヨグ=ソトースとは――門を知り、門そのものでもある存在
『ダニッチの怪』で最もまとまった説明は、作中の書物『ネクロノミコン』を図書館員ヘンリー・アーミティッジが読む場面にあります。そこではヨグ=ソトースが門を知るだけでなく、門そのもの、そして鍵と守り手でもあると述べられます。
つまり、単に入口の前で通行人を監視する番人という意味だけではありません。こちら側と向こう側が接すること、その境界を越えることに、ヨグ=ソトース自身が深く結び付いています。具体的な建物の玄関を一つ管理している、と限定すると原作の広がりを捉え損ねます。
過去・現在・未来との関係
同じ一節では、ヨグ=ソトースにおいて過去、現在、未来が一つであると語られます。また、人間には見えない存在たちが、かつてどこから現れ、再びどこから現れるのかを知っているとも記されます。ここでは、時間の一時点から次の時点へ順番に進む人間の見方が通用しません。
この表現を「未来の出来事をいくつか予言できる」という能力だけに置き換えると、意味が狭くなります。原作は、ヨグ=ソトースと時間全体との関わりを、通常の生物には当てはまらない言葉で示しています。
姿は虹色の球体なのか
球体が集まった像の根拠として参照できるのは、ヘイゼル・ヒールドのためにラヴクラフトが執筆した『博物館の恐怖』です。暗闇の中でジョーンズの想像が怪異の姿を呼び起こす場面に、虹色に輝く球の集まりとしてヨグ=ソトースが現れます。
ダニッチの怪物そのものとは区別する
『ダニッチの怪』には、ウィルバー・ウェイトリーと、家の中で育てられた不可視の巨大な存在が登場します。後者が土地を荒らすため、ヨグ=ソトースと混同されやすいのですが、終盤の説明ではウィルバーの双子の兄弟であり、父親により近い性質を持つものだと明かされます。
決定的なのは、丘の上の存在が助けを求め、父と呼びながらヨグ=ソトースの名を発する場面です。さらにアーミティッジは、兄弟がともに人間の世界の外側に由来する性質を持つと説明します。物語はこの呼びかけと説明を重ね、父との関係を示しています。
したがって、ダニッチを襲った怪物の外見を、そのままヨグ=ソトース本体の全身図として扱うことはできません。多くの肢や顔の特徴、巨大な足跡など、子に結び付く描写と父についての説明は分ける必要があります。似た性質を持つことと、同じ存在であることは別です。
人間との接点――家族と、世界の外側を招く計画
この作品でヨグ=ソトースの名が人間の生活へ入り込む経路は、ウェイトリー家の知識と儀式です。老人はウィルバーに書物を教え、死の間際にも門を開くことを指示します。ウィルバーは後に、手元の不完全な書物を補うため図書館を訪れ、ヨグ=ソトースの名を含む式文を探します。
ここで図書館は、単に怪しい本が並ぶ背景ではありません。版によって欠けた箇所や違いがあり、必要な知識を揃えられるかどうかが行動を左右します。ヨグ=ソトースとの接触は、名前を知っただけで誰でも自由に成功できるものとしては描かれていません。
終盤でアーミティッジが説明する計画は、人間の世界の外にいる存在たちを具体的に入り込ませ、人類と地球に破局をもたらすものでした。この説明では、ヨグ=ソトースに関わる門は、個人の旅行の便利な道具ではなく、世界のあり方を脅かす境界になっています。
結末で退けられたのは誰か
アーミティッジたちは丘へ向かい、怪物に対処します。事件の後、彼は、その存在がもとの構成要素へ分かれ、通常の物質宇宙の外にいる父のもとへ大部分が戻ったのだと説明します。
ここで退けられた対象は、ダニッチで成長し暴れた双子の兄弟です。ヨグ=ソトース本体を倒した、神格が消滅した、人類がその全能力を上回った、という結論にはなりません。局地的な事件の終わりと、その背後にある存在の終わりを区別すると、結末の余韻が理解しやすくなります。
『銀の鍵の門を越えて』における広がり
ラヴクラフトとE・ホフマン・プライスの共作『銀の鍵の門を越えて』では、カーターが究極の門の先で出会う存在が、ヨグ=ソトースと呼ばれるものかもしれないと述べられます。視覚的な姿はなく、一つの時空を超える存在として感知されます。
この場面では、人間の一生や個体としての自己が、より大きな全体の一面にすぎないという説明が展開されます。『ダニッチの怪』の侵入の脅威とは違い、自己や現実の捉え方を揺るがす役割が前面に出ます。原文でも両者の同一視は可能性として示されます。
夢を通じた別世界への憧れを描くセレファイスとクラネスの物語と比較すると、世界を訪れたいという願いから、自分自身の輪郭まで揺らぐ問いへの違いが見えてきます。
クトゥルフやアザトースとの違い
クトゥルフは、その名を冠する作品で像の姿や海上の目撃が重要になります。ヨグ=ソトースを読むときは、同じように頭・胴・翼を順に並べるよりも、門、時間、外側の存在、人間との接点を追う方が原典の重点に合っています。
アザトースについての記述とも並べられますが、両者のどちらが戦えば強いか、どちらが宇宙の上位にいるかという統一ランキングを、今回の原典だけから作ることはできません。作品がそれぞれ異なる形で示す畏怖を、同じ戦闘の尺度へ置き換える必要はありません。
FGOのアビゲイルとヨグ=ソトースの関係
『Fate/Grand Order』では、フォーリナーのアビゲイル・ウィリアムズに、ヨグ=ソトースの門と鍵のモチーフが強く反映されています。2017年の公式告知は「異端なるセイレム」に登場する彼女と、当時初登場のクラス「フォーリナー」を紹介しています。
関係を読む手掛かりは、ゲーム内プロフィールの外なる神への言及と、アビゲイルをその神を迎える依り代、門を開く鍵として位置付ける説明です。GameWithに掲載されたゲーム内プロフィールでは、宝具「光殻湛えし虚樹(クリフォー・ライゾォム)」も異質な世界へ通じる門と結び付けられています。この節のプロフィール確認には、その二次掲載を用いています。
原典との対応として読むと、重要なのは「アビゲイルがヨグ=ソトースと同じ姿をした怪物」ということではなく、人間の少女が外なる存在への入口になる構図です。『ダニッチの怪』では家族と儀式を通して世界の外側が接近しますが、FGOは門を担う人物をサーヴァントとして物語の中心へ置きます。神格そのものと、その力に関わる人物を分けて見ると、原典から何を受け継ぎ、ゲームが何を組み替えたかが分かります。
パズドラとモンストでは、同名のキャラクターとして登場
『パズル&ドラゴンズ』では、名前をそのまま持つモンスターが登場します。2019年12月26日の公式進化告知では「彼方なるもの・ヨグ=ソトース」から「極醒の無尽なるもの・ヨグ=ソトース」への進化を紹介し、光と回復ドロップへの変化や回復に関わるスキルを掲載しています。宇宙的な神格を、盤面を変える操作とパーティ内の役割へ落とし込んだ例です。ここで紹介しているのは告知当時の内容です。
『モンスターストライク』では、2020年の「掟と抗争のカルコサ」公式告知に、木属性のヨグ=ソトースと獣神化後の「敵地を開きし単砕暴 ヨグ=ソトース」が掲載されています。同じイベントにはアザトースとニャルラトホテプも登場します。原典の神格同士を、ゲームの一つの企画とキャラクター群にまとめ直す使い方です。
FGOのように人間と神格の接点を物語にする作品と、パズドラやモンストのように神格名を持つ操作可能なキャラクターへ変換する作品では、同じ題材でも見せ方が違います。ゲームから原作へ戻るときは、攻略上の強さよりも「境界を開く存在」という共通するイメージを追うと読みやすくなります。
参照した原典
H. P. Lovecraft, The Dunwich Horror(『ダニッチの怪』)。第V章の架空の書物の記述、ウェイトリー家の行動、第X章の呼びかけとアーミティッジの説明を主に参照しました。
H. P. Lovecraft for Hazel Heald, The Horror in the Museum(『博物館の恐怖』)。ジョーンズが暗闇で思い浮かべる球体の像について参照しました。
H. P. Lovecraft and E. Hoffmann Price, Through the Gates of the Silver Key(『銀の鍵の門を越えて』)。第IV〜V章の、ヨグ=ソトースとの同一視に留保を伴う存在と、時間・自己についての説明を参照しました。いずれもThe H. P. Lovecraft Archive掲載の原文を用い、独自の文章でまとめています。


